【EC】ROASが高いなら、なぜ増やさないんですか
みなさんこんにちは。アートトレーディングの藤井です。
前回は、AIが読むのは説明文ではなく欄です、という話をしました。今日は、AIから少し離れます。
さて、本日は、広告の数字の話を。9月の最後なので、いちばん大事なことを書きます。
それでは行ってみましょう。
「ROASは良いんですよ。でも、売上が伸びなくて」
「ROASは良いんですよ」と言われて、もったいないと思いました
支援に入る前のヒアリングで、実際に言われた言葉です。
ROASは良い。でも売上が伸びない。
聞いた瞬間、なんで、と思いました。もったいない、とも思いました。
だってROASがそれだけ高いなら、広告費は倍にしてもいいはずです。それでも回るはずの数字だった。なのに増やしていない。
理由を聞くと、はっきりしていました。広告費を積み増せば、ROASは確実に下がるからです。
下がるのが怖い。だから今の予算のまま、良い数字を維持している。
気持ちは、よく分かります。数字が悪くなるのは、誰だって嫌です。
ただ、そこで守っているものは何だろう、と思いました。
ROASを広告の配信指標にするから、成長が止まるんです。

まず、ROASだけでは何も判断できません
順番に整理します。ROASは、広告費に対して何倍の売上が立ったか、という数字です。10万円かけて50万円売れたら、ROAS 500%。
ここで抜けているものがあります。原価です。
売上が50万円立っても、そのうち原価が30万円なら、手元に残るのは20万円。広告費10万円を引いて、残るのは10万円です。
だから、赤字にならない最低ラインは粗利率で決まります。計算式は世界共通で、こうです。
損益分岐ROAS = 1 ÷ 粗利率
粗利率50%の商品なら、200%が最低ライン。粗利率40%なら250%。粗利率30%なら333%。粗利率20%まで下がると、500%ないと赤字です。
つまり、こういうことが起きます。
粗利率50%の店の「ROAS 300%」は、しっかり黒字です。でも粗利率20%の店の「ROAS 300%」は、まっ赤な赤字です。同じ300%なのに、まるで違う。
ROASという数字を単体で見て、良い悪いを言うことはできません。まず自分の損益分岐ROASを出す。話はそこからです。
平均と、次の1円は、まったく別の数字です
ここからが本題です。
先ほどの「ROASは良いんですよ」の500%という数字。これは平均です。使った広告費全部に対する、売れた売上全部の比率。
でも、広告費を増やすかどうかを決めるときに見るべきなのは、平均ではありません。次の1円が、いくら売上を生むかです。
海外の解説に、うまい例えがありました。ピザです。
1切れ目は、最高においしい。4切れ目は、まあまあ。8切れ目は、気持ち悪くなる。同じピザなのに、1切れあたりの価値が下がっていく。
広告も同じです。最初の予算は、いちばん買ってくれそうな人に届きます。予算を増やすと、その次に買いそうな人へ、さらにその次へと広がっていく。だんだん買わない人にも当たるようになる。
だから広告費を増やせば、ROASは必ず下がります。例外はありません。
ここを、多くの方が「失敗した」と受け取ってしまう。実は、そうではないんです。

増やせばROASは下がります。それでいいんです
数字で見たほうが早いので、例を出します。粗利率40%の店だとします。損益分岐ROASは250%です。
月10万円の広告で、売上50万円。ROAS 500%です。粗利は20万円。広告費を引いて、手元に10万円残ります。
ここで広告費を20万円に増やしたら、売上80万円になりました。ROASは400%に落ちています。でも粗利は32万円。広告費を引いて、残るのは12万円です。
さらに30万円まで増やすと、売上105万円。ROASは350%まで落ちました。粗利42万円、広告費を引いて12万円。
40万円まで増やすと、売上124万円。ROAS 310%。粗利49万6千円、広告費を引いて9万6千円。ここで初めて減りました。
見ていただきたいのは、ROASが500%から310%まで落ちる過程で、手元に残るお金は10万円から12万円に増えているということです。
ROASを一番良くしたいなら、広告費は10万円のままがいい。でも一番儲かるのは、20万〜30万円のあたりです。
ROASの最大化と、利益の最大化は、違う場所にあります。
では、どこで止めるのか。増やした分だけを見ればいいんです。
10万円から20万円に増やしたとき、追加の10万円が生んだ売上は30万円。この追加分だけのROASは300%です。20万円から30万円のときは、追加の10万円で売上25万円。250%。30万円から40万円は、追加の10万円で19万円。190%です。
損益分岐ROASは250%でした。だから追加分のROASが250%を割ったところが、止めどきです。この例なら30万円あたり。
平均のROASを見ていると、この判断は一生できません。
どこまで出していいかは、LTVが決めます
もうひとつ、大事な話があります。
ここまでは1回の買い物だけで計算してきました。でも、お客様は1回で終わりではありません。
たとえば、お客様1人を獲得するのに5,000円かかったとします。客単価8,000円、粗利率40%なら、初回の粗利は3,200円。初回だけ見れば1,800円の赤字です。
でも、その方が年に3回買ってくれるなら、年間の粗利は9,600円。獲得にかけた5,000円を回収して、4,600円残ります。
Shopifyの公式ブログに、回収期間の式が載っていました。
獲得コスト ÷ お客様1人あたりの月間粗利 = 回収にかかる月数
さっきの例なら、5,000円 ÷ 800円で、およそ6ヶ月。半年で回収できるということです。
半年待てるなら、獲得に5,000円出していい。待てないなら、出せない。それだけの話です。
そして、同じ記事にこう書いてありました。
LTVと獲得コストの比率が10対1と極端に高い場合、マーケティングや顧客獲得への投資不足を示している可能性があります。高すぎる比率は、伸ばせるはずの速度で伸びていないことを示唆します
ECでは3対1から4対1が典型で、2対1を切ると損益分岐に近い、とも書かれていました。
つまり、比率が良すぎるのは褒められる状態ではなく、アクセルを踏み足りていないサインだということです。
冒頭の「ROASは良いんですよ。でも売上が伸びなくて」は、まさにこれでした。良すぎたんです。
ここは、私がいちばん強く思っているところです。LTVを上げる戦略を持ってEC事業をやるのか、知らずにやるのか。この差は、天と地ほど違います。
LTVを知らないまま広告を回すと、判断が1回の買い物の中だけで完結してしまいます。初回で赤字なら止める。それ以外の打ち手がない。
でもLTVを持っていれば、初回の赤字を投資として読めます。半年で回収できると分かっていれば、そこに出せる。同じ商品、同じ広告なのに、出せる金額がまったく変わります。
そして出せる金額が変われば、取れるお客様の数が変わる。ここで差がつきます。
ひとつ注意を。この比率を出すとき、LTVを売上で見るか粗利で見るかで数字が倍くらい変わります。**どちらで計算しているかは、必ず揃えてください。**ここがずれていると、判断ごとひっくり返ります。
じゃあ、いくらから試すか
考え方は分かった、で終わると意味がないので、実務の話も書いておきます。
まず、自分の損益分岐ROASを出してください。1 ÷ 粗利率です。これが分からないうちは、広告の数字を見ても何も判断できません。
次に、いまの広告費を2割だけ増やしてみてください。倍にする必要はありません。2割です。
そして、増やした分だけを見ます。増えた広告費に対して、増えた売上がいくらか。それが損益分岐ROASを超えていれば、その2割は成功です。もう2割増やしてください。
割り込んだら、そこが今の限界です。戻します。
これを月単位で繰り返すだけで、自分の店の限界点が見えてきます。1回で正解を当てにいく必要はありません。刻んで探せばいいんです。
季節や商材で限界点は動くので、一度出した数字を正解として固定しないことも大事です。
ROASを上げる勝負を、しているわけじゃない
最後に、いちばん言いたかったことを書きます。
ROASは、成績表ではありません。まだ出せる余地がどれだけあるかを示す、目安の数字です。
高いなら、余地がある。増やしていい。増やせばその数字は下がりますが、それは失敗ではなく、正しく踏んだ証拠です。
私たちは、ROASを上げる勝負をしているわけじゃありません。売上と利益を上げる仕事をしています。
数字を守りにいくと、事業は止まります。あの日「ROASは良いんですよ」と言われたときにもったいないと思ったのは、たぶんそういうことでした。
数字は、怖がるためにあるのではなくて、踏むために見るものだと思っています。
この記事の計算式や目安は2026年9月時点のものです。数字はご自身の店の実数で必ず出し直してください。
みなさんのお店の損益分岐ROAS、いくつですか。もし出したことがなければ、今日それだけでも計算してみてください。
それでは、また次回。